CT被ばく  (読売新聞 2004年2月17日)
  機器に頼り勝ちな医師  背景に教育不足と診療報酬
    日本のがんの3.2パーセントは、放射線診断による被ばくが原因との推計がまとまり、検査のあり方に
    警鐘を鳴らした。
    放射線診断に伴う発がんの恐れは以前から指摘されていたが、国内データは初めて。
    英オックスホード大の研究グループによると日本の数値は英国の5倍で、調査した15カ国で突出して高かった。
    あくま推定値だが医療関係者に「これほど他国と開きがあるのは問題。被ばくの低減を進めるべきだ」
    など波紋が広がった。
    背景にはCT(コンピューター断層撮影法)装置の普及が指摘される。主に大病院にしか置いていない欧米と違い、
    日本地域の小規模医療機関にも備えられており、保有台数は約8000台と世界一だ。
    放射線被ばく量は撮影条件にもよるが、一般に通常の胸部エックス線検査の数百倍或いはそれ以上だ。
    大切なのは診断のために本当に検査が必要かどうかの見極めと被ばく量を最小限に抑える工夫だ。
    ところが医療機関では「とりあえずCT」といった安易な使い方をすることが少なくない。
    千葉大医学部(総合診療部)の生坂政臣教授によると、例えば頭痛の場合、「検査が必要な患者は一握りだが、
    頭痛訴える患者のほぼ全員に検査を行う医療機関もある」と指摘する。
    背景には問診などによる診断能力が不十分で、検査機器に頼りがちな医師がいることが挙げられる。
    原因医師教育にある。医学生や研修医の実習は主に病棟で行われ、一般外来で患者を診る機会は少ない。
    外来は診断能力を養う為に重要だが、そうした訓練は乏しいといわれる。
    診療報酬制度の問題もある。問診は時間をかけても収入は一定だが、検査は実施するほど増収になる。
    必要な検査かどうか厳しく保険会社がチェックする米国などと違い、安易な検査につながりやすい。
    今回の報告で英国は放射線診断の頻度も発がんの推定値も最低だった。
    英国には疾患ごとに行うべき検査を示す指針があり無用な検査の減少につながっている。
    日本放射線技師会は2000年、検査ごとの被ばく量を減らす目標値を示したが、目標値を達成した医療
    機関の公表も検討すべきだ。
    患者も受診先を変えたり、主治医以外の意見を求めたりする時には、写真の貸し出しを受けることにし、
    放射線検査の繰り返しは避けたほうがいい。

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