すい臓
  飢餓克服システムの司令塔 ー 飽食の時代に疲弊したのか?
     すい臓で作られるすい液は、デンプン、タンパク質、脂肪など多くの物質を消化できる強力な消化液だ。実際、
     病気になった胃を手術で摘出したとしても、すい液が胃液の働きを十分に補える。また、すい液から十二指腸
     へすい液を運ぶ管が何らかの原因でふさがってしまうと、すい液はすい臓自身を消化してしまう。これが急性
     すい炎であり、すい液の強力さを物語っている。
     すい液にはもう一つ、血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)を調節するという大事な役割がある。血液中の糖分
     はすべて細胞のエネルギー源であり不足すると大変だ。たとえば、血糖値が正常時の4分の1程度になると、
     脳は大打撃を受けて昏睡状態に陥ってしまう。しかし、逆に血糖値が高いと血管や神経が傷つけられてしま
     うので、血糖値は常に適切な範囲内になければならない。
     すい臓は、血糖値を下げる 「インスリン」 や血糖値を上げる 「グルカゴン」 などのホルモンを分泌し、血糖値
     を適切に保っている。たとえば食事後に血糖値が上がると、すい臓が分泌するインスリンの働きで、肝臓は
           血糖を使ってグリコーゲンを合成し、脂肪組織や筋肉でも糖分の取り込みがうながされる。
      こうして血糖が消費され、血糖値が下がるのだ。食料が不足していた時代には、たまの食事を無駄にしない
           これらの働きは飢餓にそなえた非常に大切なものだ。しかし、すい臓を中心とする“飢餓克服システム”が
           飽食の時代においては逆にあだとなっている、という考え方が最近注目をあつめている。
     食料不足にそなえて巨大化した脂肪細胞が、インスリンの作用を邪魔する物質を分泌していることなどが
     分かってきたからだ。インスリンの作用が邪魔されると、血糖値は下がりにくくなる。それを補おうと、すい臓
     は頑張るが最後には疲れ果てて血糖値が高いままで下がらなくなってしまう。これが近年増え続けている
     糖尿病の発症シナリオの一つと考えられているのだ。
   なぜ、すい液はすい臓自身を消化しないのか?
     すい液は唾液や胃液がなくても、それを補えるほど強力な消化酵素だが、すい臓自身は消化しない。
     それはすい液に含まれる消化酵素のほとんどが、十二指腸にいたるまで不活性だからだ。
     例えばタンパク質分解酵素のトリプシンは、すい蔵内ではその前駆体のトリプシノーゲンの形で存在する
     ため不活性だが十二指腸で分泌される物質によって活性化されてトリプシンとなるのだ。

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