心臓
脈動の源は「ペースメーカー細胞」に存在する。
臓器はすべて脳の忠実なるしもべだ − そんなイメージをもっている人も多いだろう。しかし、人体にとって
すべてを脳に依存することは危険だ。特に命と直結する心臓が、意識的に止められる性質のものであったら
危険きわまりない。心臓の正しい脈動は、周期的に脳から指令が出ているわけではない。
右心房の上の「洞結節」(どうけっせつ)とよばれる部分にある 「ペースメーカー細胞」
が心臓全体に指令を
出しているのだ。心臓に病気をもつ人は、心臓に周期的な電気刺激を与えるペースメーカーをつけるが、
これはこの細胞の代わりをしていることになる。
興奮すると脈拍が上がるように自律神経を通して、脳の指令が心臓に影響を与えることはあるが、心臓は
基本的に自分でリズムを作りだし、脈動しているといえる。
心筋細胞(心臓の筋肉細胞)一つ一つにも自ら収縮する能力がある。心筋細胞がバラバラに収縮していたら、
1日に6000〜1万2000リットルもの血液を全身の隅々にまで行き渡らせることなど不可能だ。
ペースメーカー細胞が指揮をとることで、多くの心筋細胞をいっせいに収縮させることを可能にしている。
とはいえ、すべての心筋細胞がただいっせいに収縮してもだめだ。心房(しんぼう:心臓の上半分)と心室
(しんしつ:心臓の下半分)が交互に収縮しないと、効率よく血液を送り出すことはできない。
この時間差のある収縮を実現するために、心臓は精巧なシステムを用意している。信号の伝達スピードを
変化させることによって、心房と心室の“時間差収縮”を可能にしているのだ。
まず、ペースメカー細胞から発せられた信号が左右の心房全体に急速に伝わり心房が収縮を始める。
しかし信号が心室との境界(房室結節)まで来ると、信号の伝わる速度は減少し、すぐには心室まで伝わら
ない。心房が収縮を終えて血液を心室に十分送り込んだころに、信号は心室の入り口あたりに達する。
すると信号は再びスピードを上げ、一気に心室全体に信号が伝わる。こうして今度は心室が収縮し、血液を
全身そして肺へと送り出すのである。肺へ向かった血液は、肺で酸素を受け取り、再び心臓にもどってそこ
から全身へと送り出す。