常識がくつがえった! ニューロンも増殖する
     ノートパソコンを長時間使用していると電力を消費して熱をもってしまうように、ヒトの脳もその活動に大きな
     エネルギーを必要とする。体重のたった2%しかない脳が、平均して体の約20%のエネルギーを消費して
     いるのだ。これは1日約500キロカロリー、お茶わん2杯分のご飯に相当する。
     この脳の高度な情報処理は、ニューロン(神経細胞)がになっている。ニュウロン同士は互いに「樹状突起」
     (じゅじょうとっき)と「軸索」(じくさく)でネットワークを結び電気信号と神経伝達物質を使って情報交換を行う。
     また、脳には他にも、数種類の「グリア細胞」とよばれる細胞が存在する。グリア細胞には、ニューロンに
     栄養を渡すもの、異物の掃除を行うもの、ニューロンの軸索に巻きついて"絶縁皮膜"となり、信号の伝達
     を高めるものなどがある。
     大脳には約1000億個のニューロンがあるが、1日あたり10万以上ものニューロンが死んでいくとされる。
     そしてニューロンは細胞分裂を行わないので一生減り続ける…これが今までの常識だった。
     しかし1998年、この常識はくつがえされた。記憶に重要な役割を果たす脳の海馬(かいば)という領域で
     ニュ−ロンが新しく生み出されていることが分かったのだ。ニューロン自身は細胞分裂しないがニューロン
     に分化する前の「神経幹(かん)細胞」が存在しこれがニューロンを生み出していたのである。
     まだ、新生ニューロンが脳の中でどのような役割を果たしているのかよく分かっていない。しかしマウスの
     実験では、新生ニューロンがある種の記憶に関係することが分かってきている。また、サルの大脳新皮質
     (大脳表面の大脳皮質のうち進化的に新しいもの)でもニューロン新生が起こっているとする報告もある。
     この研究には異論もありまだ結論は出ていないが、人でいうと大脳皮質は言語や記憶、創造的活動など
     高次の機能をになう部分であり、今後の研究が期待される。
     神経幹細胞と新生ニューロンの研究を行っている慶應義塾大学医学部の岡野栄之教授は「今後の研究
     が進めば脳血管障害やパーキンソン病などの脳の病気への治療応用ができるかもしれません。神経幹
     細胞を体外で増やし、そこから造ったニューロンを脳に移植するといった方法や、脳内の神経細胞を活性
     化させてニューロンの再生を行わせるといった方法が考えられます」と語る。
   男女の脳には左右差があった
     左脳と右脳には働きに違いがある。左脳は言語、計算、論理的思考が得意で、右脳は空間認識や芸術
     的思考を得意としている。そして左半身を支配するのは右脳で右半身を支配するのは左脳である。
     また、脳には「性差」があることも最近の研究から分かってきた。女性は、左右の脳の連絡役である神経
     線維の束、「脳梁」(のうりょう)が男性とくらべて2割ほど大きい。これは女性が活発に左右の脳で情報
     交換していることを意味する。実際、女性は脳卒中で言語機能に障害がでても、男性より回復が早い。
     これは女性が左脳だけでなく右脳も使って言語をあやつるからだと考えられている。

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