妊婦の飲酒やはり控えて (読売新聞 2004年6月15日)
  胎児性アルコール症候群  発育障害や顔面異常の可能性
     ビールや缶チューハイ、ワインなどのアルコール飲料製品に妊婦などが飲んだ時の悪影響を呼びかける表示
     が掲げられる。
     大阪産婦人科医会会員の松本雅彦さん(59)に改めて、飲酒が妊婦にもたらす影響について聞いた。
   出産後も注意
     「1日に大瓶1本(あるいはコップ1杯)ぐらいのビールなら大丈夫ですか」。松本さんは臨床の場でこの質問
     をしばしば受ける。
     「量を少なくしたから大丈夫とは言えない。どうしてもという時はたしなむぐらいに控えて」と指導しているという。
     また「妊娠して、いつごろから飲酒してもかまわないか」とも尋ねられる。これには「初期だから危険性が高い
     とは限らず、中後期でも障害が起きる可能性は十分ある」と強調。
     アルコールは母乳にも含まれるため、出産後の飲酒にも注意が必要としている。
     妊娠中の女性が飲酒すれば、アルコールは胎盤を通じて胎児に届く。肝臓で代謝したアセトアルデヒドも
     同様に胎児が摂取する。
     血中濃度は妊婦も胎児も同じで、松本さんは「これらが影響を及ぼすと考えられる」と話す。
     飲酒を原因とした障害は「胎児性アルコール症候群」と呼ばれる。
      ▽出生前後の発育障害
      ▽知的障害など中枢神経系の異常
      ▽顔面などの異常(小頭症、小眼球症、上唇の中央溝の未発達など二つ以上の症状)などが現れてくる。
     欧米では1970年頃から報告があり、新生児1000人に1人とする説も。
     国内では数十件とされるが「異常の原因が分からないまま診断されているケースも多いとみられ、実数は
     不明」と松本さんは指摘。
     胎児性アルコール症候群まではいかなくても「胎児性アルコール効果」とされる胎児もいる。
     厚生労働省が2000年に行った「乳幼児身体発育調査」では、妊婦1万人のうち、妊娠中に飲酒したのは
     18.1%。
     週3回以上は1.4%で、飲まなかった人に比べ出生時、男児で0.8センチ、0.1キロ、女児で0.3センチ、
     0.07キロの体格面での劣差がみられた。
   自覚もって
     国立公衆衛生院(現国立保健医療科学院)の研究者らが、全国260ヶ所の産科医療機関で調査を行い、
     2001年度にまとめた「わが国における妊産婦の喫煙・飲酒の実態と母子への影響に関する疫学的研究」
     で飲酒が胎児に与える影響を認知していた妊婦は72.8%にのぼった。
     飲酒している妊婦で禁酒を考えているのは36.3%、節酒したいも50.7%いたが、いずれの意思もない人も
     13%いた。
     松本さんは「妊娠や育児によるストレスは多いが、その解消をアルコールに求めるのは良くない。
     子供を産み、育てるという自覚を強くもって、どう生活していくかを考えてほしい」と話している。

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