たった一つの光の粒も逃さない
     眼はよくカメラにたとえられるが、動画をとらえるという点からすると、ビデオカメラにより近いといえるだろう。
     眼に入ってきた光は、レンズの役割を果たす「水晶体」(すいしょうたい)を通って、眼の奥にある「網膜」と
     いう“フィルム”に集められる。その刺激が網膜の視細胞のはたらきによって電気信号にかえられ、脳へと
     伝わるのである。最近のビデオカメラには「手ぶれ防止機能」がついているが、眼にも同じ機能がある。
     眼の前で本を開き、頭を上下左右に振ってみても少々のゆれなら文章は読める。こんなことができるのは、
     耳の奥にある三半規管が頭の動きを感知し、小脳が情報処理することによって、眼球についた筋肉が頭
     の動きとは反対方向に眼球を動かしているからである。
     眼の明暗の感度の良さも驚異的である。まずカメラの「絞り」にあたる瞳を広げたり、ちちじめたりすること
     によって入ってくる光の量を調整する。これでだいたい16倍の調節ができる。さらに網膜では光を感じとる
     視細胞内の精巧なしくみによって感度が100万倍も変化するのである。
     この視細胞には2種類ある。主に色の違いを見分ける錘状体(すいじょうたい)と、明暗を見分ける杆状体
     (かんじょうたい)である。私達の眼が暗闇の中でほんのわずかな光でも感じとれる秘密は杆状体の中の
     「ロドプシン」という光を感じとる分子にある。その感度はきわめて高く、光子(光の粒)一つすらも検出でき
     るといわれている。ロドプシンは光を受けとるとその分子構造をかえて、細胞内に信号を伝える。信号は、
     いくつかの情報の橋渡し役の分子に次々と渡され、その度ごとに、どんどんと信号を受けとる分子の数が
     増殖する。そして、ついには1秒間に信号は約50万倍にふくれ上がるのである。

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