喫煙で肺の免疫細胞変化  がん化の仕組み解明 (毎日新聞 1996年8月19日)
  有害な活性酸素を分泌  キラー細胞の働き阻害
     喫煙者の肺から取り出した免疫細胞の一つ、マクロファージ(貪食細胞)を顕微鏡で見ると、たばこの煙の炭粉で
     黒く汚れ、マクロファージならぬ「真っ黒ファージ」になっているという。
     京都産業大学の竹内実・工学部教授(免疫学)は、たばこが免疫機能に及ぼす影響を研究。
     この「真っ黒ファージ」が、がんから身体を守っているナチュラルキラー(NK)細胞を阻害して、がんを引き起こす
     メカニズムを解明した。
     「真っ黒ファージ」は病原菌を食べてしまう働きを持つマクロファージが、たばこの煙の炭粉を食べる為に発生する。
     竹内さんは「黒くなるほど変化すれば、免疫機能に影響が出るはず」と考えた。
     目をつけたのは、マクロファージが分泌する活性酸素。
     活性酸素は、傷口の消毒に使うオキシドールでなじみの過酸化水素などで、体内に入ってきた細菌を殺すために
     分泌されるが、多量に出過ぎると周辺の細胞を傷つけてしまう。
     喫煙者のマクロファージは、ニコチンの影響で活性酸素を、非喫煙者の4倍も出すことを実験で証明した。
     更にがん細胞を攻撃する役割を持つNK細胞の働きが喫煙者では低下することからNK細胞とマクロファージの
     関係を調べた。
     マクロファージ、NK細胞、がん細胞を一緒に24時間培養する実験で、NK細胞の働きを見ると、喫煙者のマクロ
     ファージと一緒に培養したNK細胞は非喫煙者の場合のNK細胞に比べ、がん細胞を約1/4しか殺さないことが
     分かった。
     また、活性酸素の一種、スーパーラジカルを分解する酵素のスーパーオキサイドディスムターゼを加えるとNK
     細胞の働きが戻ることも判明。
     「真っ黒ファージ」の出すスーパーラジカルがNK細胞の働きを阻害することをつきとめた。
     NK細胞は、がん細胞を攻撃して、がんを防ぐ重要な働きを持っている。
     喫煙は発がん物質のベンツピレンなどを含むことから、発がん性が指摘されているが、NK細胞の活動低下に
     よって、がんになり易くなる面もあると考えられる。
     竹内さんは「汚れたマクロファージが元に戻るには約半年かかるとされている。
     喫煙者にたばこをやめろとは言わないが喫煙を科学的に分析した結果を知り、周囲の人に気をつけて吸って
     もらえれば、と思う」と話している。

目次にもどる