肝臓2
  科学物質に汚染された現代を見抜いた解毒酵素P450
     現代社会はさまざまな人工化学物質に囲まれているが、その中に有害なものも多い。
     不思議なことに肝臓には、自然界に存在しなかった有害な人工化学物質も無毒化してしまう解毒酵素が存在する。
     「チトクロームP450」という酵素である。
     有害物質のほとんどは水に溶けにくいため、体内に取り込まれると排出されにくい。P450はこれらの有害物質に
     酸素原子をくっつけて水に溶けるようにし、体外に排出しやすい形に変えてしまうのである。
      ヒトは1人あたり約70種類のP450をもっている。
     ふつう酵素はある特定の物質だけに働くが、P450は多くの物質にはたらける融通性をもっているため、人体は今
     まで存在しなかった人工有害物質さえも解毒できるのである。P450の分子構造の中心付近には鉄イオンがある。
     鉄イオンのそばには有害物質が入り込める空間があり、ここで有害物質は解毒反応を受ける。
     P450酵素群が多くの有害物質に対応できる秘密はこの空間にある。空間のサイズや形が微妙に異なった多くの
     P450が存在するのである
    一方、P450がある種の物質を逆に発ガン性物質に変えてしまう例もある。こげた肉に含まれるヘテロサイクリック
     アミンや、タバコの煙に含まれるベンツピレンなどはP450と出会うことで発ガン性が生じるのだ。
    また、P450は薬の副作用や効果にも関係する。薬も人体にとっては“異物”にかわりなく、P450が体外に排出
     されやすいように変換してしまうのだ。
     P450をつくる遺伝子情報のデータベース作成を行っている産業技術総合研究の後藤修主任研究員は 「特定の
     薬を代謝するP450の遺伝子の働きが弱い人の場合、その薬がいつまでたっても体内に残り、副作用を起こす
     ことがあります」 と説明する。
     今後、薬とP450との関係の研究が進めば、個人のもつP450遺伝子情報を利用して、その人に合った効果の
     高い投薬をする「オーダーメイド医療」が実現できると考えられる。

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