インフルエンザとその他の感染症
     インフルエンザに対する最良の防御は、人に備わっている自然防御力である。自然防御力は1918〜19年
    のスペインカゼ大流行時に人口の約6分の1を守ったように思われる - それらの人々の間では、防御機構が
     最も効果的に働いたのであろう。ビタミンCを適切に摂取すると、自然防御機構の機能が増強され、大多数の
     人が感染に抵抗できるようになる。1976年に、ブタ・インフルエンザの大流行が起きそうになった。米国連邦
     政府は1億6500万ドルの補助金を計上してワクチンを準備し何百万人もの国民に接種した。しかし、懸念さ
     れたような流行は起こらなかったのである。代わりに、ワクチン接種を受けたかなりの人にひどい副作用が出
     て、予防接種は途中で打ち切られた。副作用の中でも最も重いものは、筋肉の衰弱と激しい感覚麻痺を起こ
     すギラン・バレー症候群という神経炎であった。
     ビタミンCによるインフルエンザの予防と治療の方法は、カゼの時と基本的に同じである。1時間ごとに1グラ
     ム以上のビタミンCを摂取すべきである。しかし、疲れ果てるまで働き続けるために、ビタミンCを用いるのは
     よくない。カゼやインフルエンザにかかったら、2〜3日は寝て休息すべきである。そして、ビタミンCを摂ると
     ともに多量の水分をを補給して、こじれないようにする。2〜3日以上熱が続いたり、あるいは非常に熱が高い
     時は主治医に診てもらうことを忘れてはならない。ビタミンCはカゼとインフルエンザばかりでなく、その他の
     ウイルス性疾患や細菌感染症の予防と治療にも効果がある。その作用の主な機序は、免疫系の増強による
     ものであるが、このほかビタミンCには、直接ウイルスに作用して、ウイルスを不活化する働きがある。
     ウイルス感染症に効く薬は極めて少ないので、ビタミンCの抗ウイルス作用は注目に値する。細菌感染症は、
     抗生物質その他の薬剤によって治療できるが、この場合でもビタミンCはその治療を大いに助ける。
     1935年、コロンビア大学内科外科専門学部で研究していたクラウス・W・ユンゲブルート博士は、世界で始
     めて次のような報告をした。ビタミンCは大量摂取して体内の濃度を高めると、ポリオウイルスを不活化して
     麻痺の発症を防ぐ、というのである。次いで、博士およびその他の研究者によって、ビタミンCがヘルペスウ
     イルス、ワクシニアウイルス、肝炎ウイルス、その他のウイルス(インフルエンザウイルス、狂犬病ウイルス、
     口蹄病ウイルスなど)を不活化することが報告された。ビタミンCの抗ウイルス作用の研究は、村田らによっ
     ても行なわれた。村田らは、細菌のウイルスをモデルに用いて研究し、ウイルスがフリーラジカル(奇数個の
     電子をもつ分子)の働きによって不活化されることを明らかにしている。
     ノースカロライナ州リーズヴィルの内科医、フレッド・R・クレナー博士は、ユンゲブルートの報告に刺激されて、
     小児麻痺、肝炎、ウイルス性肺炎などの患者の治療にビタミンCを用いた。博士のウイルス性肝炎の治療は
    静脈注射で体重1キロあたり400〜600ミリグラム(体重68キロの人で28〜42グラム)を8〜12時間おき
     に投与するものであった。また、いろいろなウイルス性疾患の治療に、この2倍までの量を試みている。
     抗ウイルス作用のほかに、ビタミンCの細菌に対する作用についても報告が多い。初期の研究の一つは、
     ボイセヴィンとスピレーン(1937年)によって行なわれた。100ミリリットルあたり1ミリグラムのビタミンC
      (血中濃度をこの濃度にするのは容易である)によって、結核菌の増殖が抑えられることを明らかにしたので
     ある。また、ビタミンCが多種の細菌(腸チフス菌、破傷風菌、ブドウ球菌)を殺し、細菌毒素(ジフテリア菌、
     破傷風菌、ブドウ球菌、赤痢菌などの毒素)を不活化することも報告された。殺菌の仕組みについては、ウイ
     ルスの場合と同じように、銅を触媒としてビタミンCと分子状酸素から生じるフリーラジカルが攻撃する、と考
     えられる。肝炎は感染または毒物によって起きる肝臓の炎症である。肝炎になると、通常、黄疸が現れる。
     血中の胆汁色素が過剰になるために皮膚が黄色くなり、目が白くなるのである。重金属や四塩化炭素など
     の毒性物質だけでなく、各種の薬物も中毒性肝炎を起こすことがある。ビタミンCは、毒性のある有機化合物
     を水酸化またはグリコシル化したり、重金属と結合したりして、かなり広範な解毒力をもつので、中毒性肝炎
     にある程度の効果を発揮する。流行性肝炎(A型肝炎)は、ウイルスや細菌によるが、ふつうは、糞便で汚染
     された食物や水によってウイルスが体内に侵入して起きる。一般的な治療は、3週間以上病床で安静にする
     こと。血清肝炎(B型肝炎)は、B型肝炎ウイルスという別のウイルスが原因で、輸血、消毒の不十分んな注射
     針、歯科用ドリルなどから患者に感染するのが普通である。潜伏期間は1〜5ヶ月である。血清肝炎は、主と
     して比較的年配の人に起きる。流行性肝炎より症状が重く、ある研究によれば、死亡率は20%のにもなると
     いう。日本の森重博士は、医学生の時にビタミンCに興味を抱くようになった。学位論文のテーマが、創傷の

          治癒を促進するビタミンCの効果について、であったからである。博士は胸部外科であるが、福岡の病院の外科

     部長になった時、輸血した外科患者の多くに、ある程度大量のビタミンCを投与した。その結果、これらの患者
     は血清肝炎にかからず、その一方、ビタミンCを投与しなっか患者では血清肝炎が発生することを知った。
     1978年に博士と村田は、1967〜76年に福岡鳥飼病院で輸血を受けた外科患者1537人について調査し
     た結果を報告している。ビタミンCを与えなかった患者170人では11人が肝炎にかかり(発生率7%)、一方、
     1日2〜6グラムのビタミンCを与えた患者1367人では3人しかかからず(発生率0.2%)、しかも、その3例
     ともB型ではなかったのである。ビタミンCの大量投与は肝臓を守る。それは、中毒性肝炎の原因になる毒物
     を解毒する。喫煙やアルコールの飲みすぎによる肝臓障害を防ぐのに役立つ。また、免疫系の機能を強化して、
     肝臓のウイルス感染および細菌感染を防ぐ。
     ビタミンCとウイルス性疾患について最も経験の豊かな医師は、カリフォルニア州サンマテオのロバート・F・
     カスカートである。1971年、私の著 『ビタミンCとカゼ』 が出版されてから間もなく、カスカートは、次のような
     ことを書いた手紙をよこした。本を読んでその勧めに従った結果、彼が子供の時から悩まされいたしつこい呼吸
     器疾患と内耳炎に素晴らしい効果があった、というのである。また、カゼについて、徴候がみられた時に8グラム
     のビタミンCを摂れば(2回、3回と摂り続けなければならない時もあったが)たいてい治まった、と述べている。
     カスカートは、ビタミンCの効果に強い感銘を受け、整形外科医から一般開業医に転向して、もっぱら感染症
     の治療に従事するようになった。そして1981年には、ビタミンCの大量療法を施した9000人についての報告
     を行なった。彼は、患者一人一人について、腸のビタミンC最大耐容量(不快な下痢を起こさずにビタミンCを
     経口摂取できる最大量)を調べた。ビタミンCは、通常の治療の補助手段として、必要なとき最大耐容量まで
     摂取させると非常に有効であることを知った。この最大耐容量は人によって異なるし、同じ人でも時によって異
     なる。カスカートの観察によると、この最大耐容量は、一般に重症患者で極めて大きいが、回復するにつれて
     小さくなる。驚いたことに重症患者のなかには最大耐容量が1日200グラムを超えた者がいたという。
     なお、最大耐容量は症状が抑えられると2〜3日で正常の1日4〜15グラムに下がる。彼によれば急性疾患
     の場合、ビタミンCは最大耐容量の80〜90%を投与しなければあまり効果がないという。また、いくつかの
     症例で症状の抑制は不完全であったが 、一般にその効果は著しく、症状の好転が急速で完全であることが
     多い、と述べている。ストレスの多い状態ではビタミンCが破壊されるので、ビタミンCを大量摂取して補わなけ
     れば、その血中濃度が低下することが知られている。このような状態には、感染症、ガン、心臓疾患、手術、
     負傷、喫煙、および精神的ストレスがある。ビタミンCの血中濃度が低い状態を、アーウィン・ストーンは低アス
     コルビン酸血症と呼び、カスカートは誘導性壊血病あるいは誘導性アスコルビン酸過少症と名付けている。
     これを改善しないと健康が損なわれ病気が悪化する。配偶者に死なれた人の罹(り)病率と死亡率が増大
     するのはストレスが増えてビタミンCが破壊される為である可能性がある。特に副腎のビタミンCが減るのは、
     ストレス・ホルモンであるアドレナリンの産生にビタミンCが余分に使われるからである。誘導性アスコルビン
     酸過少症がもたらす可能性について、カスカートは次のように述べている。(1981年)
     ビタミンCが減少すると、次のようなことが起こり、随伴する疾患の発生率が増加することが予想される。
     ○免疫系の障害
        二次感染、リュウマチ様関節炎とその他の膠原(こうげん)病、薬物・食物などに対するアレルギー反応
        ヘルペスのような慢性感染症、急性感染症の合併症、しょう紅熱など
     ○血液凝固系の障害
        出血、心臓発作、卒中、痔疾、その他の血栓症   
     ○副腎機能低の下によるストレス対応の失調
        静脈炎、その他の炎症性疾患、喘息、その他のアレルギー症など
     ○コラーゲン生成の障害
        治癒力の低下、肥大性瘢痕(はんこん)、床ずれ、静脈瘤、ヘルニア、しわ、妊娠後の腹部の伸び跡
        など。さらには、軟骨組織の損耗や脊椎骨の変性も含まれよう。
     ○神経系の機能不全
        倦怠感、痛みに対する耐性の低下、習慣性の筋けいれんなど。さらに精神障害と老人性痴呆も含ま
        れる。
     ○免疫機能の低下や解毒機能低下に起因するガン
     ただし、ビタミンCの欠乏がこれらの疾患の唯一の原因である、というのではない。このような機能系の障害
     によってこれらの疾患になりやすくなる、このような機能系は、その機能を発揮するためにビタミンCを必要と
     する、ということを指摘しているのである。
     ビタミンCはウイルス性疾患に効果があるので、当然、エイズに対しても試験すべきである。この3年間、エワ
     ン・キャメロン博士、ロバート・F・カスカート博士、および私は、それぞれ独自に、適当な医療機関に対してその
     試験を要請したが、何の反応もなかった。
     唯一の研究は、カスカート(1984年)が90人のエイズ患者を調査したものである。患者は、他の医師の治療
     を受けながら、自分から進んで大量のビタミンCを摂った人である。また、カスカートは自分でも、経口あるいは
     静脈注射によるビタミンCの大量投与(1日50〜200グラム)を行なって、12人のエイズ患者を治療した。
     博士は、これらの限られた資料から、ビタミンCはエイズの症状を抑え二次感染の発生率を下げる、という結論
     を得た。この線に沿った研究を重ねる必要がある。

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