病原体を殺す強力な胃酸 VS ピロリ菌
     胃液は強酸性(pH1)の液体であり、よく化学の実験で使う金属ですら溶かしてしまう塩酸が主な成分だ。
     こんな強力な酸にそのまま触れたら、胃壁はアッという間にボロボロになってしまう。
     胃壁は粘液でおおうことで胃液を避け、自分自身が消化されることを免れているのだ。
     それでもお酒を飲んだり、ストレスを感じたりして粘液のバランスが崩れると胃壁に傷や穴ができてしまう。
     これが胃潰瘍だ。
     胃液には、他にもタンパク質を分解するペプシンという消化酵素も含まれている。
     しかし、たとえ人は手術で胃を摘出したとしても、他の臓器が分泌する消化液で食物の消化は行える。
     そういう観点からすると、胃液の役割はむしろ食物の殺菌にあるといえる。
     胃は腸へと食物を少しずつ送り出すために約4時間も食物を貯蔵する。
     約37度の体内はいわば真夏の室内のようなもので放っておいたら食物は腐ってしまう。
     食物の第一関門である胃は、強力な塩酸で有害な病原体を殺してしまい、食物の腐敗を防止し、あとに
     つづく消化器官を守っているのだ。
     しかし、この強酸の中でたくみに生きのびる細菌がいる。胃潰瘍の原因として近年になって注目をあびて
     いるピロリ菌だ。
     1980年代なかば頃までは、胃内は強酸性なので住みつく微生物などいないと考えられてきただけに驚
     きである。最近の分子レベルの研究から、ピロリ菌が強酸性の環境の中で生き延びることができる謎が
     解明されてきた。
     ピロリ菌は周囲から尿素(有害なアンモニアから肝臓で合成される)を取り込む。
     そして、特殊な酵素を使って尿素からアルカリ性のアンモニアを作り出して酸を中和し、酸の影響を免れて
     いたのだ。
   大きく伸び縮みして食物と胃液を混ぜあわせる胃
     1.胃が空の時は、内面のひだが縮んで縦に細くなっている。
     2.胃に食物が入ってくると内面のひだが大きく広がる。
     3.層の筋肉が複雑に連動して動くことで食物と胃液が混ぜ合わされる。
     4.食物が入ってきて約4時間後、食物が十二指腸へと送り出される。

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