鼻から入れる胃内視鏡検査 (読売新聞 2004年9月12日)
  苦痛少なく安心感
     12年前に食道がんの手術を受けた東京都の男性(67)は、再発していないかを調べるため、東京医科
     歯科大病院で毎年、内視鏡(胃カメラ)の検査を続けている。
     だが、口から内視鏡をのみ込むたびに吐き気に苦しみ「検査が必要と分かっていても嫌でたまらなかった」。
    昨年7月、鼻から内視鏡検査を入れる検査を、この病院で初めて受けた。
     吐き気や痛みはなく、「とても楽でした」と言う。
     検査中に医師と自由に話せる安心感もあり、およそ1年後の検査では自ら鼻から入れる内視鏡を希望した
     ほどだ。
   つらい吐き気
     切らずに身体の中を見ることができる内視鏡検査は、胃や食道がんの早期発見や定期検査に広く使われ
     ている。
     だが、口から装置をのみ込む際、苦しい思いをした人も多いはずだ。舌の付け根やのどに内視鏡が触れると
     咽頭反射という、物を吐き出す反応が起き、吐き気が出るためだ。
     最近の内視鏡は1センチほどの太さでのみ込みやすくなり口に含む麻酔も使われている。
     とはいえ、吐き気を完全に無くすことはできない。苦痛を和らげるため、鎮静剤の注射や点滴で眠ったような
     状態にして検査をするなどの方法も試みられている。
    この場合、検査後しばらく休息する必要があり、すぐに車を運転したり仕事したりできない難点がある。
   細いタイプで普及
     そこで苦痛の少ない検査として注目されているのが、鼻から内視鏡を入れる方法だ。
     舌の付け根を通らないため、咽頭反射はまず起こらない。
     直径5.9ミリの細いタイプの内視鏡が2002年に登場したことから普及し始めた。
     事前に麻酔薬を鼻の穴に塗ったり噴射したりする。
     この方法で2000人以上に検査を行った島根県出雲市の出雲中央クリニック院長、宮脇哲丸さんが、
     口、鼻それぞれから入れる内視鏡検査を受けた患者に、今後検査を受けるならどちらの方法がいいか
     を尋ねたところ、93%が「鼻から」と答えた。
     東京医科歯科大助教授の河野辰幸さん(食道・胃外科)は「従来の検査法では『もう二度と受けたくない』
     と思う人が多く、病気の早期発見の支障になっていた。
     鼻からだと患者が楽なだけでなく、使う薬が減り検査に要する人手も減らせる」と言う。
   研究会も発足
     検査中に医師と会話ができるのも大きな利点だ。検査費用の自己負担額は、口からの場合と変わらない。
    短所は従来型の内視鏡に比べ直系が細いため、画像が少し粗くなること。
     それでも宮脇さんは「苦痛が少ないので、検査に多少時間をかけることもできる。病気の発見率は従来と
     変わらず、むしろ少し高いぐらいだ」と言う。
     鼻の中の骨や軟骨が曲がった鼻中隔弯曲症など鼻の穴が極端に狭い場合は行えない。
     治療も検査も、患者に負担の少ない方法が望ましいのは言うまでもない。
     8月には、麻酔法やより安全な検査法を確立するため、河野さんらが中心になり、「経鼻的内視鏡検査法
     研究会」を発足させた。

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