ヒトもフェロモンを感知できる?    
     ヒトの鼻はイヌには劣るとはいえ、1リットルの空気中にある100億分の1グラムのにおい分子をも感知
     できる鋭敏な器官である。
     また、ヒトは3000〜1万種類ものにおいを識別できるといわれている。鼻の穴の奥には鼻腔という空洞
     が広がっており、その天井の「嗅上皮」にはにおいを感じる嗅細胞が集まっている。
     嗅細胞の表面には嗅受容体があり、においの分子をとらえるとその刺激が脳へと伝えられる。
     一方、ヒトもフェロモンを “かいでいる” のではないかとする報告が最近になって相次いでいる。
     フェロモンは、昆虫で他の個体の生殖活動などをうながす分泌物質として知られているものだ。
     ヒトでは、狭い寮に住む女性たちの月経周期が一致してくる 「ドミトリー効果」 が知られ、フェロモンの
     影響と考えられている。
     ネズミなどでは「鋤鼻器」(じょびき)というフェロモンを感知する専用の器官がある。しかしヒトでは鼻の
     中に鋤鼻器の痕跡はあるものの脳へつながっていないようでほとんど退化している。
     ヒトにフェロモン受容体があるかは、いまだに謎だが、興味深い研究結果が2000年に報告された。
     ネズミのフェロモン受容体候補の遺伝子によく似た遺伝子が、ヒトでも発見されたのだ。
     しかも、ヒトではどうやら嗅上皮(きゅうじょうひ)でこの遺伝子が発現しているようなのである。
     東京都神経科学総合研究所の市川眞澄主任研究員は次のような仮説をたてる。
     「哺乳類はフェロモン専用の鋤鼻器をもちますが、魚類は嗅細胞とフェロモン受容細胞が同じ場所に
     混在しています。これまでは進化の過程でフェロモン専用の鋤鼻器が分離したと考えられてきました。
     しかし、嗅上皮にはフェロモン受容細胞が一部で残っているのかもれません。
     ヒトは退化した鋤鼻器のかわりに嗅上皮に残ったフェロモン受容細胞でフェロモンを感知している可能
     性があります。」
     〈 鋤鼻器 : 位置は鼻の中央(鼻中隔)あたり) 〉

目次にもどる