侵入者たちと戦いつづける感染防御の最前線
     ヒトは呼吸のために、1日に何と約1万1000リットルもの空気を肺に送り込んでいる。空気中には無数の
     細菌やウイルス達がただよっており、肺には絶えず病原体が侵入してきていると言える。
     こういった病原体によって肺に炎症が起きるのが肺炎だ。肺炎の中でも結核菌が原因のものが、日本で
     かつて死亡原因の第一位を占めていた結核である。
     ちなみに結核は最近になって再び増加傾向に変り、国は1999年に「結核非常事態宣言」を行っている。
     こういった危険に常にさらされている肺は、まさに“感染防御の最前線”といえる。このため肺には侵入者
     を撃退する 「免疫システム」 が特によく発達している。
     気管と気管支の内面は粘液でおおわれている。粘液の中には、病原体に結合してその働きを失わせる
     免疫の主役の一つ「抗体」(こうたい)が存在しており、感染を防いでいる。
     無限ともいえる病原体に対抗するため、抗体は多様性をもっており、病原体が侵入してくるとその病原体
     の攻撃に適した専用の抗体が放出される。
     また、細菌や小さな異物はこの粘液にとらわれ、内壁の細胞の線毛(せんもう)がむち打ち運動をして粘液
     を口の方に押しやっていく。こうして口から吐き出されるのが痰(たん)だ。
     免疫細胞(白血球)の一種、マクロファージ(大食細胞)も重要な役割を果たしている。
     肺胞(はいほう)内や気道内を自由に動き回る「肺胞マクロファージ」は、侵入してきた細菌や異物を次々

     とむさぼり喰い、活性酸素(O2-など)や一酸化窒素(NO)といった“武器”を使って細菌の細胞膜やDNA

     (デオキシリボ核酸)を破壊してくれているのだ。
     肺胞 (はいほう): 枝分かれした気管支の末端についた袋状の組織。吸い込んだ空気の中の酸素と
     毛細血管に流れる血液中の二酸化炭素が交換される。
     大きさは0.06〜0.2ミリメートルまたはそれ以上。 成人の両肺の肺胞の数は約6億個にのぼる。

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