コレステロール  「薬の診察室」  医療ビジランスセンター  浜 六郎医師 より)
     コレステロールは動脈硬化の原因として、悪玉の代名詞のように言われている。しかし、これは間違い。
     3大栄養素の一つ「脂質」の主要成分で、しっかりした体作りには欠かせない。
     人の活動の最小単位は細胞だ。細胞は薄い膜で被われていて内部にも膜のような成分縦横に走っている。
     コレステロールはリン物質、タンパク質といっしょにその膜を作る。
     特に神経は、このような膜が長い繊維を形作ってできている。
     コレステロールが母乳(特に初乳)や鶏卵にたっぷり含まれているのも、赤ちゃんの神経や免疫系の発達に欠かせ
     ないからだ。さらに副腎皮質ホルモンや性ホルモンなど重要な5種類のホルモンの原料でもある。
     血中コレステロールが減ると、細胞の動きが鈍り、血管や組織がもろくなり、返って脳出血を起こし易くなる。
     免疫力が衰え、感染症やがんにもなり易くなる。
     特にがんは、コレステロールが高い程、なりにくいとわかってきた。
      さすがに300以上になると、血管壁などにコレステロールの結晶が出やすくなり、心筋梗塞や胆石の原因となるが、
     もろもろ勘案して、死亡率に影響を及ぼすのは280以上の人。
     220〜280、特に240〜260くらいが最も長生きだと、いくつもの疫学調査でわかった。私は、他の危険因子が
     ない場合、280までは薬などで下げる必要はないと考えている。
     国民栄養調査の約1万人を14年間追跡した調査ではコレステロールが240〜260の人が最長寿だった。
     大阪府八尾市で1万人を11年追跡した結果も、240〜280が最長寿。
     がん死亡の危険は160未満が最大、280以上が最小で、2倍以上の差がある。
     昨年末、「日本脂質介入試験」という臨床試験の結果が出た。220以上(平均で270)の人ばかり5万人に低下剤
     を6年間使ったもので、平均50ほど下がったが、最も死亡率が低かったのは220〜280の人。
     180未満に下がった人は、死亡率が2.6倍だった。がん死亡率が最低なのは280以上だった。
     欧米のデータでも、循環器以外のがんと、呼吸器や消火器のたいていの病気、外傷もコレステロールが低いほど
     死ぬ危険が大きい。
     また、米国で12万人以上を15年間追跡した調査でもコレステロールが低いと、入院を要する感染症や入院中に
     感染症になるケースが多かった。
     日本では現在、年3千億円が低下剤に使われている。だが、本当に必要な人は10分の1もないと私は推定して
     いる。必要がないのに使って、寿命を縮めている人が多いのではないかと心配する。

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