乳がん切除時のセンチネル生検 (読売新聞 2004年10月24日)
  乳がん切除時のリンパ節大半を温存  転移の有無見極め後遺症発生抑える
     埼玉県のA子さんは今年9月、同県立がんセンターで早期の乳がんと診断され、乳房を温存しつつ、がんを
     切除する手術を受けることになった。
     手術では再発を防ぐため、脇下のリンパ節を広範囲に切除するのが一般的だが、胸のむくみなど後遺症が
     出ることも多い。
     そこで手術中にリンパ節の一部だけを取る「センチネルリンパ節生検」が行われ、直ちに病理検査した結果、
     転移のないことがわかった。
     それ以上リンパ節を取ることなく手術は終わり、後遺症の不安も解消された。
   つらいリンパ浮腫
     乳がんの細胞は、血流やリンパ液(免疫細胞や老廃物を運ぶ体液)の流れに乗って広がる。
     リンパ節にがんが転移した場合、全身にも転移する可能性が高いと考えられ、手術ではがんとともに脇の下
     のリンパ節も切除するのが標準的な治療になっている。
     実際に取らないと転移の有無を確認できないため画一的に切除されてきた。だが、リンパ節を取ると後遺症
     が起きやすい。
     体のの中心へ向かうリンパ液の流れが悪くなって、老廃物と水分が組織にたまり腕がパンパンにむくんだり
     動きにくかったりするリンパ浮腫に苦しむ患者は多い。
   最初の転移先を検査
     これを防ぐ手法として注目されているのがセンチネルリンパ生検だ。センチネルは「見張り」の意味で乳がん
     の細胞が、リンパ管を通じて最初に流れ着くリンパ節を指す。
     ここに転移がなければ、その先のリンパ節にも転移がないと判断して切除を避ける方法だ。
     手術前に、乳房に放射性同位元素や色素を注射し、色素に染まったり、放射性同位元素が集まったりした
     リンパ節(通常2〜3個)をセンチネルリンパ節として摘出する。
     同様の検査は、皮膚がんの一種である悪性黒色腫で始まり、乳がんにも1990年代後半から実施されて
     いる。この検査により、95〜100%の確率でリンパ節転移の状況を正しく判定できるという。
   生存率に差はない
     気になるのは、リンパ節を残しても、がんの治癒率に影響しないのかという点だ。
     欧米では500人の患者を対象に、この検査を使って治療した場合と従来同様にリンパ節を一律に切除した
     手術とを比べた臨床試験で、生存率に差はないという報告があり、更に大規模な試験が進行している。
     日本でも普及しつつある。
     乳がん治療を行う全国の主な医療機関を対象に読売新聞社が今年8月に行った調査では、回答施設の
     うち35%がこの検査を実施しており、42%が「試行中」と回答した。
     埼玉県立がんセンターでは、これまでに検査した約1100人のうち約76%が「リンパ節転移なし」と診断
     され、リンパ節を切除でずに済んだ。
     ただし、検査でセンチネルリンパ節自体が見つからない場合や、手術中の診断では「転移なし」だったのに
     手術後の精密な診断で転移が見つかる場合もまれにある。
     そうした場合、リンパ節を切除するかどうかなど、事前に話し合っておくことが必要だ。
     同センター病理科長の黒住昌史さんは「不必要なリンパ節切除によって、後遺症に苦しむ患者は少なく
     ない。まだ確立した方法とはいえないが、今後さらに広がるのではないか」と話している。

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