アミノ酸 (読売新聞 2003年4月9日)
      肉や牛乳、卵には、栄養素として必要なタンパク質がたくさん含まれている。「良質の」と形容される
      こともあるタンパク質の“質”とはどんな基準で評価されるのだろう。
      「体内で働くタンパク質をつくるアミノ酸がバランスよく含まれ、消化吸収されやすい食品が『良質』と
      言えるでしょう」と岸恭一・徳島大医学部教授(栄養生理学)が教えてくれた。
      炭水化物、脂肪と並び、エネルギーを生み出す三大栄養素の一つに数えられるタンパク質。
      皮膚や筋肉など体の部品をつくり生命活動の担い手として働くタンパク質と基本的には同じもので
      いずれもアミノ酸から作られる。
      しかし、食事で摂ったタンパク質はそのまま体内で利用されるのではなく、いったんバラバラになり、
      アミノ酸に分解された後、必要に応じて、新たにタンパク質を組み立てる材料として使われる。
      アミノ酸は100種類以上見つかっているが、タンパク質を作るのは20種類だけ。体内で合成できる
      ものもあるが、「必須アミノ酸」は合成できないため外部から取り込まなければならない。
      必須アミノ酸を効率よく補給しようとブームになっているのが「アミノ酸サプリメント(栄養補助食品)」。
      アミノ酸を主原料にした錠剤や飲料で、「体脂肪を燃やし、ダイエット効果がある」と謳う商品もある。
      ところが、岸教授は「困った現象だなと思います」と顔を曇らせる。
      タンパク質やアミノ酸は糖質と違い、体内に貯蔵される仕組みがない。余分に摂ると排泄されてしま
      い、必要量を摂り続ける必要がある。
      摂取量が少ないと筋肉のタンパク質をアミノ酸に分解して利用するが、これが続くと筋肉は衰えてしまう。
      ネズミを使った実験では、必須アミノ酸のいくつかが足りないえさを与え続けると、他の栄養素が
      十分でも全く成長しなくなる。
      「だからと言って、普通に食事していれば不足することはないし、病人に輸液で補給するような特別な
      場合を除けば、わざわざサプリメントとして摂る必要はない」と岸教授はいう。
      薬効のあるアミノ酸も確認されているが、サプリメントとして出回っている商品は、医薬品のように
      効果や安全性を確認する臨床試験が行われいるわけではない。せいぜい動物実験止まりだ。
      タンパク質としてではなく、アミノ酸の形で摂取することにも疑問がある。
      中川八郎・大阪大名誉教授(タンパク質代謝学)は、アミノ酸のだんごを与え続けたネズミと天然の
      タンパク質をえさにしたネズミの飼育実験をした。
      アミノ酸だんごの場合、肝臓に弾力性がなくなり、組織がもろくなった。小腸の粘膜から吸収された
      アミノ酸は毛細血管から門脈を通じて肝臓に集まり、全身へ運ばれる。
      アミノ酸がそのまま入り続けたことで、肝臓に何らかの影響を及ぼした可能性があるという。
      中川さんは「アミノ酸は偏った摂り方をすると、タンパク質が合成しにくくなる。タンパク質はタンパク質
      として摂るのが、身体にとっては自然なのだろう」と語る。
      タンパク質とアミノ酸。生命が長い進化の過程で巧妙に築き上げた利用システムが存在している。

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