2006.2.19.  足環は本当に安全なの?


足環は本当に安全なの?

鳥類標識調査では、野鳥をかすみ網で捕らえて金属製の足環を着けて放します。この時、野鳥たちにはどんな負担がかかるのでしょうか。まとめてみます。

かすみ網にかかった時の負担---網にかかると、逃れようと本能的に暴れます。これによって体力を消耗します。骨折、ショック死などもあるようです。

かすみ網にかかったままで放置される負担---網にかかってもすぐには外してもらえません。少なくないストレスがかかります。直射日光が当たったり風があったりしたら、体力の消耗も急激に進むでしょう。

かすみ網から外される時の負担---網から外される時=人間に触られる時です。少なくないストレスがかかります。すぐに外れないときは、さらに大きなストレスがかかります。

計測される時の負担---翼を広げられたり押さえつけられたりします。大きなストレスがかかるでしょう。

写真撮影時の負担---上の写真の通りです。たいへん大きなストレスがかかるでしょう。

これだけではありません。「調査」で着けられる金属製足環の負担があるのです。これは、一生続く負担です。足環は十分軽いので負担は少ないとされていますが、小鳥の体重も大変軽いのです(最も軽いキクイタダキやヒガラは10グラム前後しかないのです)。足環を着けたのちに、足を失って帰ってきた例も報告されています。足環が原因であるという証拠はありませんが、足環が原因でないという証拠もありません。

 

いろいろと調べてみましたが、調査で取り付けられる足環の安全性を検討した論文は1つだけしか見つかりませんでした。この論文です。pdfファイルですから、ダウンロードしてよく読んでみて下さい。内容を要約すると次のようになります。(一部、前後関係を判断して私が補足しました)

 

バンディング(標識調査)に対して、一般市民や研究者の一部が「野鳥にとって危険だからやるべきでない」と言う。この論文では、足環が鳥の生活に支障をあたえないほど十分軽いことを示す。

かすみ網を使ってウグイス、ウソ、エナガ、オオルリ、キクイタダキ、キセキレイなどを捕まえて体重を測って、着けた足環の重さと比べた。その結果、足環の重さは体重の2%以内だから問題はないと判断できる。コゲラの雛のしたフンは体重の3.2%もあった。フンより足環のが軽いのである。それに、鳥の体重は一年間に数%〜20%以上も変化したから、足環の2%の方がずっと軽い。ゆえに、足環の重さは鳥に負荷をかけてないと結論できる。

調査の過程で鳥を死なせてしまう失敗もあったが、これは作業中の不注意が原因で、足環が原因の悪影響を証拠づける資料は無い。研究者が十分経験を積んだら事故は最小限に抑えられ、足環自体の障害はほとんどない。足環を着けたコゲラの指が後で損失したことがあるし、コゲラの巣の雛の齢を間違って作業して一腹の半分を数日早く巣立たせてしまったが、足環が原因ではない。

 

私は驚きました。ウンチと足環の重さを比べています。意味があるのでしょうか?また、体重の変化と足環の重さを比べています。体重50kgの人間の皮下脂肪が1%(500g)増えたときの負担と、500gの鉛を入れた靴を履いたときの負担を等価に論じているわけです。塗料を全身に塗布するような方式でなく、脚という局所への足環装着なんですから、野鳥の負担は、装着する脚の重量との関係で論ずる必要があるんじゃないでしょうか。缶ジュースを飲んで富士山に登るのと、片方の靴にぶら下げて登るのと、負担は同じなのでしょうか。

 

この論文を読んで、私が驚いたのは次の2点です。

無茶な理屈で足環は安全であると無理矢理結論づけていること。「始めに結論ありき」ではないかと思えてしまいます。

このような論文を審査して掲載する論文誌(学術雑誌)があること。

 

そして、この論文に出ていたノグチゲラのこと(下記に引用)を調べてみて、驚きは疑問へ、そして怒りへと変わっていったのです。

しかし,こうした研究方法に対する危険性の過大評価や不信感は,一般市民や一部の研究者においてまだみうけられる.例えば,著者らは数年来,ノグチゲラ個体群を保護するために足環標識調査による基礎資料の収集を提唱しているが(石田 1989 ),足環装着の危険性(が期待される調査成果を上回るという評価)を理由にした一部の反対があり,実現にいたっていない.

 

ノグチゲラとは、沖縄島北部の「やんばる」地域にだけ生息する体長約31cmのキツツキ、絶滅が心配される特別天然記念物です。

続きは次回へ。

 

---この疑問は2005年8月末のことでした。